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黒澤世莉です。写真は雑司が谷鬼子母神に出現したテント。ゴールデンウィークだしイベントがあるのかしら。

芸術とお金の話を書きます。

芸術は儲からん、みたいな話じゃないです。いや、それはそれで悩みごとですが、今回の主題はそこじゃないです。

二点あって、自分は正当な報酬を求めているが、自分が雇う芸術家には正当な報酬を払えていない、というジレンマ。

もうひとつは、芸術でお金を稼ぐ、なんてことがそもそも間違っていて、芸術ではお金は稼げないんだ、という意見と、いや芸術だってお金を稼げるんだ、現に稼いでいるひとはいるじゃないか、という意見の対立。

さて、どこから取り掛かろうかな。

なぜわたしがこんなことを悩んでいるかというと、自分がうまいことお金を稼げていない、ということが原因です。もし稼げてたら「は? そんなの稼げてない奴の実力不足じゃね?」とか言ってたかもしれないくらいには、お調子者ですからね僕は。

自営業的な生き方していないと、なかなかこういうふうに考えないかもしれないですね。時給とか月給とかだけで働いてると、あんまり考えないことかもしれません。

考えれば考えるほど、お金というのは不思議なものです。そもそも成り立ちからして謎です。なぜ金属片や紙切れをありがたがるのか。それは「人間のほぼ全員が円という通貨の価値を信用しているから」ですよね。別に紙や金属片に価値があるわけではなく(物理的な価値はあるけど)、この信用というのが鍵なわけです。

ジンバブエドルとかだと、信用がなくってインフレで大変なことになっちゃったりしたわけで。

でも、日本円だって、太平洋戦争のあとはけっこうなインフレで大変だったわけで。それは信用がなかったからですよね。カネよりコメだったわけです。社会が乱れると、お金の価値ってゼロになるかもしれないわけですね。ああ、怖い。

しかも、いまはビットコインとかも出て来ているわけですよ。いままでは国家がお金の信用を引き受けていたわけですが、これからは変わっていくのかもしれません。うひゃー、未来的。

話を戻しましょう。お金ってつまり信用です。そして、信用ってのはつまり幻想ですよ、こんなハイパーインフレとかリーマン・ショックとか起こしちゃうものが幻想ではなくてなんなのさ。最も身近なファンタジー、それが「お金」だと思いますよ。

で、その信用を、「誰か」「何か」に価値を認めるから、支払うわけです。

この「誰か」と「何か」というのがまたややこしいです。

たとえば、「何か」。僕は人気アニメ「おそ松さん」にはなんの価値も感じないわけですが、これが尾崎冴子といううちの劇団員であれば、イベントに○○円ポーンと出しちゃうわけですよ。逆に、この「何か」がカレー、たとえば大阪の「旧ヤム邸」がイベントで屋台出してまっせ、てなったら僕はポーンとお金使っちゃうけど、冴子は「ふーん、美味しそう」で終わりですよね。

「何か」の価値っていうのは「誰か」が決めるもの。だから「何か」の質の高低は、必ずしも重要じゃないことも多いです。甲本ヒロトが「売れてるものがいいものなら、世界一うまいラーメンはカップヌードルになっちまう」的なことを言ったっていうのは有名ですが、ま、そういうことですよね。

「たくさん売れているもの ≠ 一番質の高いもの」です。もちろん、そういう場合もあると思います。質が高くて安くて誰にでも手に入る、そういう本当に費用対効果の高い「何か」だってあるでしょう。

だから、売れているっていうのは、「何か」の価値の一面でしかないわけですよ。ただ、こと「お金」に関して言えば、売れているものに当然多く回っていきますよね。お金を使ってくれる「誰か」が多い、あるいは、数は少ないけど額が「多い」てことが、「何か」にまつわる色々にお金を稼がせます。

これ自体は全然健全だと思います。ただまあ、結局「売上が多い」ことだけが目的になっちゃうと問題も起こってきて、たとえば「すげー売れてるけど健康にあんまり良くない素材だよ」ものとか「すげー安いけどめっちゃ労働者をこき使って過労死してるひとがいっぱいいる」とか、そういうの、やっぱダメじゃない。

「何か」にまつわるものが「誰か」をめっちゃ不幸にするってのは、問題よね。

「何か」をつくるときには、それにまつわる全体がハッピーな状態を心がけたほうがいい。お金のまわりだけじゃなくて、労働環境とか、環境への影響とか、そいうのも含めてね。ただまあ、今回はとりあえずお金の問題に話を絞ります。

たとえば、プロフェッショナルの大人に仕事をお願いするなら、最低でも1日2万円は払いたいじゃない。自分だって、それくらいは最低欲しいし。

だって、月10日稼働したって20万円よ。年収240万円よ。これに国民健康保険、年金、税金がかかってくるのよフリーランスは。日給2万円であっても、ぜんぜん憲法の保証する最低限度の生活しかできないでしょ。

これなんかも、丸尾聡センパイなんかは「セリくんがそんなこと言っちゃダメ。5万円はもらいましょう」て言ってくださるし、5万円で10日可動で50万円で、やっと年収600万円ですね。子どもや親や、家族を養う、て考えたら、これくらいあっても多くはないですよね。

でまあ理想を追えばきりがないけど、大人には2万円、てことにしましょうか。一旦ね。

それで、自分が演劇をつくるときの話にうつります。いろんな慣習とか業界の常識とか無視して、さらに単純にするために、人件費のみをやりくりする話にしてみます。関わる人たちの稽古から作業から、全部1日2万円支払ったとしてます。

たとえば次の時間堂「ゾーヤ・ペーリツのアパート」で考えてみましょうか。考え方を簡単にするためにザックリ行きますね。

出演者19人で、稽古場につくスタッフが仮に3人いるとしましょうか。30回稽古があって、全部に2万円をお支払いしたら1,320万円です。これが稽古ね。

公演を足しましょう。出演者に、スタッフさんをプラスして、大雑把に見積もって5日間40人拘束したとしたら、400万円かかります。あわせて1,720万円ですね。しかもこれにはプラン料などはふくまれません。

仮に、これで芸劇シアターウエスト6ステージ満員にしたとして、1,200人の有料動員でこの人件費を賄おうとしたら、14,333円のチケット代になります。これに劇場費用や制作美術照明音響衣裳宣伝などの経費は別にかかります。

いま、14,333円を時間堂に支払って下さるお客さまが1,200人いるとは、ちょっと考えにくいですね。相場観から言っても高すぎるでしょう。

だから、いまのやりかたで、いまの日本の環境で演劇をやるかぎり、出演者やスタッフに、自分が求めるような謝礼を支払うことは非常に困難です。ということは、自分が求める謝礼をもらうことが非常に困難だということに繋がってきます。

少なくとも、お客さまらのチケット代だけで演劇公演を経済的にまわしていく、というのは、相当困難なことだと思います。よく言われることですが、演劇の売上の上限は、どうしたって劇場の客席数に限られてしまいますからね。

だから、色々なひとたちが知恵を絞って、グッズを売ったらいいんじゃないかとか、映像コンテンツで広げたらいいんじゃないかとか、やってらっしゃるわけすね。

「お客さまのチケット代だけではそもそも経済的に回らないんじゃね?」みたいな状況を受けて、最初に書いたような「演劇で稼ごうという発想自体が間違っている」という意見が浮き上がってきます。

ま、芸術をお金に換算しない、てのは、経済的理由だけで主張されるわけではないです。芸術というものの価値をお金に換算することがそもそも間違ってる、ていう考え方もあります。

芸術活動はお金に換算できない。だから、公共ないし私設の補助金を使うか、または、自分で他の生業を持ち、その稼ぎで芸術活動する。この二つの考え方がもっぱらだと思います。ほかにあったら教えてください。

芸術が商業主義に堕する、みたいな発想自体は、理解できます。マーケティング先行で作られる舞台芸術が、はたして芸術的価値が有るのか、とかね。

でも、個人的に、そういうものを否定する気にはあんまりなれません。どんな作品であれ、現場はがんばってるだろうし、それを喜ぶ観客がいる。劇場が社会の中で存在意義を持っている、という状況は、ある種の商業主義が担ってくれているわけで。それは歌舞伎や宝塚や劇団四季や2.5次元であったりするわけですが。

だから、僕個人は商業演劇にいってお金を稼ぐってことをすることは、やればいいんですよね。ただ、お声がかからないだけで。

じゃあ、営業すればいいんでしょうね。営業とか苦手でね。営業するくらいなら、座して死を待つほうがマシです。ウソです言い過ぎました。

でもね。

演劇でお金を稼ぎたいの? て話にそもそもなってきますよね。

お金稼ぎたいなら、他に方法あるんじゃないの? 黒澤世莉さん。て。

そもそも、何で演劇やってるんだ?て話になりますよ。少なくともお金を稼ぐため、ではない。いまは仕事になってますけど、仕事にしたくてはじめたわけではない。

演劇で何がしたい、て、楽しいから演劇やってるだけですから。

楽しくなくなったら、やめたらいいんです、演劇なんてね。仕事じゃないんだから。(いやいま仕事なんだけどさ、僕にとっては)

演劇で誰かの世界をひっくり返したい、とか、演劇を志す若者たちのために環境を整えたい、とか、そういう思いもあるけども。

うーん、演劇とお金の相性ってよくねーなー、てのが、いまの結論です。

でも、途中でちらっと書いたけど、宝塚とか松竹とか四季とかよしもとは、商業的にうまくやってるから、全然ビジネスにはなるんだと思いますよ。ただ私、自分がそこからあまりにも遠いところにいて、仕組みがあんまりわかってないだけです。あとそこにまつわる人がしあわせかっつうと微妙だなー、て思うところもあるので、微妙っす。

なにぶん狭い世界の見聞で書き散らかしておりますので、間違っている部分もあるかと思います。読者諸賢のご助言、ご意見など、お待ちしております。

同日追記2
Fb上で諸賢が語らうコメントは、直接こちらをご覧ください。本文よりよほどためになります。
https://www.facebook.com/seri.kurosawa/posts/1153280261391480

20160502追記
このエントリがとても人気記事になってうれしい黒澤世莉です。が、こういう記事は伸びるのに公演情報はさっぱり伸びないんですがどういうことですか。本業は演出家なので、もしも興味を持ったら、次回公演時間堂「ゾーヤ・ペーリツのアパート」公演情報もチェックしてくださいね。オトクな先行販売もあります。
http://handsomebu.blog.jp/archives/52370530.html

____________________おしらせ____________________

【キャンペーン】黒澤世莉を2万円で売ります【先着5名様】
http://handsomebu.blog.jp/archives/52361098.html


【演出します】2016年の時間堂は7月の本公演とレパートリーシアターの【12ヶ月連続上演】

時間堂レパートリーシアター
4月15日(金)16日(土)『人の気も知らないで』『ロミオ中止』at 十色庵

http://handsomebu.blog.jp/archives/52365685.html

時間堂レパートリーシアター
5月13日(金)14日(土)『いちごの沈黙。』他
at 十色庵
http://jikando.com/2015-10-26-05-27-33/554-rpt5.html

【次回本公演】「ゾーヤ・ペーリツのアパート」
2016年7月29日(金)〜31日(日) 東京芸術劇場シアターウエスト
http://jikando.com/nextstage/534-zoykasapartment2016.html
【ご利用受付中】静謐な演劇空間「toiroan 十色庵」
http://toiroan.tumblr.com/


【ワークショップ情報】4月
http://handsomebu.blog.jp/archives/52367204.html