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黒澤世莉です。

右は、王子小劇場職員であり、超人気劇団「犬と串」を主宰するモラルさん。モラルさんと、左に写っているイトウシンタロウさんは浅からぬ因縁があるようです。師弟対決はかないませんでしたが来年は観てみたい気もします。モラルさんは、俳優枠参加の綾田将一さんの唯一の演出作が、初舞台だったそうです。そんな10年ぶりに再会した師弟コンビの活躍も、どこかで観られるかもしれません。王子小劇場ディレクターズワークショップの隠れた楽しみ方ですね。

昨年には小説も出版されてますモラルさん。どんだけ多才なんだと。犬と串、要注目ですよ。ちなみに時間堂とは360°違う芸風です。

犬と串
http://inutokushi.com/

さて本題。

王子小劇場ディレクターズワークショップが終わりました。「それ、なーに?」て方は臨場感あふれる以下のまとめがおすすめです。
王子小劇場 第4回ディレクターズワークショップ #王子小劇場DWS 参加者のツイートまとめ
http://togetter.com/li/921550

終わったあとモヤモヤと考えていたことがあるので、せっかくなのでweb上で共有します。

4日間のディレクターズワークショップは、連日最後に成果発表の時間があります。10分弱のシーンを他のチームや運営、見学の方がたに観てもらって、そのあと振り返りをします。この発表からフィードバックというところがこのプログラムの重要な部分です。決してポジティブフィードバックだけではありませんでしたが、敬意を欠いた発言は無かったように思います。議論の精度はともかく、健康的な場ではあったかなと思います。

わたしはワークショップのファシリテーターだったわけですが、他のグループと同じ条件で作品づくりをしました。わたしの前の夏井さんのころからそうでした。なので、ファシリテーターも演出家参加者はじめのみんなから鋭いご意見をいただくわけです。

それで4日目の自分の発表から振り返りの時間のやりとりがひっかかっていたので、自分の中でずっと考えていたんですね。要は「俳優演出にこだわりすぎてるんじゃないか、それによらない手段はないのか」みたいなことです。

WSが終わってしばらくは「他所の現場ではそうすることもあるし、形から記号的につくっていくのもためしてみるかなあ」とか考えたり喋ったりしてました。前回のWSのときも同じような作り方だったので、変えてみるのも一興かな、いつも同じじゃワンパターンかな、とか。

ごめん、日和ってたわ。そんなことしない。次も同じ場があれば、同じように作品をつくる。

なぜそう思うに至ったかっていうのを細かい論証を省いて結論だけ言うと、「原体験」「アンテナ」のふたつの理由がある。

もともと演劇をはじめたきっかけ、というものには乏しいのだけど、子どもの頃から大嫌いなものだけははっきりしていた。テレビドラマに出てくるド下手どもと、有名ミュージカル劇団の機械のような記号俳優が、ほんとうに気持ち悪かった。そういうことだけはやるまいと思って演劇をはじめていた、いやそこまで当時から言語化して意識していたわけではないけど、とにかくそういうのが嫌いだった。その「原体験」はわたしの皮膚から拭い去れないものだ。

「アンテナ」は、たぶん福岡のプロデューサー高崎さんが言っていたと記憶している。「演劇作品には20や30の構成要素があって、ふつうはそのうち5~10くらいしか判別できないし、どんなに優れた演出家でも15~20くらいまでしか判別できない。だから優秀なサポートを入れて、自分の弱点を補ってもらうように作品づくりをしたほうがいい」みたいなことをブログに書かれていた気がする。違ってたらゴメン。

PINstage高崎大志の「さくてきブログ2」
http://sakuteki.exblog.jp/

で、この意見には大賛成で、アンテナがあるものはこだわれるけど、アンテナがないものはそもそも味わえない、質の善し悪しもわからないって場合がある。たとえばわたしは、アバンギャルドな演出や、アングラの文脈をぜんぜん味わえないし、退屈にしか感じない。よくできてるんだろうな、とは思うので、品質の部分はギリ解ってる気でいるが、これもあやしいものだ。

マイズナー・テクニックに出会って、生きている人間の血の通ったやりとり、間や行間とよばれるものが「演劇」なんだと思うようにいたる。稽古場の基礎訓練から、人間の身体化された情緒、声に繋がる感情、表現できなかった殻を破る瞬間の鮮烈さ、そういうものを何度も経験して、その素晴らしさこそ演劇の魅力だと確信する。ピーター・ブルックの「演劇とは、観るものと観られるものがいる状態のことだ(意訳:黒澤世莉)」という言葉を引くまでもなく、演劇とは古代芸能のころより俳優と観客を中心に成立してきた。ただ、台本や戯曲が不要だといっているのではない、それはやはり重要だ、もちろん演出家以上に。しかし、台本や戯曲は、俳優と観客が出会うための地図、あるいはレシピであって、上位概念ではないのだ。少なくとも、わたしにとっては。

だから「メロドラマ」という読解と目指す目的地を言ったことも嘘ではない。そうあるべきだといまでも思う。ただ、そのメロドラマなるものを立ち上げる以前にもっと重要な「俳優がどう存在するか」という問題に取り組まないというのは、わたしにとって演出云々以前にそもそも演劇でさえなくなってしまう。

そして、わたしにとってわたしのチームの「剃刀」は「味わいと品質」の話で言えば、「俳優同士のやりとり」という味わいの部分の品質を高めた。その品質がそもそも分からない、アンテナがない観客に伝わらないことは、忸怩たる思いであるし、そういう観客にも品質がある、ということを分からせる演出的手腕がないことは修行が足りない部分だ。考えてみれば演劇をやっていてずっと取り組んでいる問題である。他のアンテナの部分の質を高めることであるていど解決しようと試みている部分でもある。なかなかどうして、その道程は遠い。でも目標は、「やりとり」の圧倒的な品質を以って力づくで分からせてやる、てとこ。それは自分の劇団とか外部の活動とかじゃなくて、自分の演劇に対する姿勢の問題だ。

というわけで、自分の芸術家の根幹の部分だったので、ぜんぜん人の意見入れる余地無しっす。あっしはここにこだわってやっていきますんで。伝わらなければ、老演出家は死なず、ただ消え去るのみです。

こうやって断言できるあたりは年をとってよかったなあと思います。20代の頃はもっと周りの意見に振り回されていた気がします。いまだに影響されやすいほうだとは思いますけどね、芯の部分を変えるつもりはない、ていうかそれ変えるならもう演劇やんなくていいじゃん。

最近演劇に対してネガティブな気持ちがわきやすいんだけど、ひさしぶりに自分が演劇のどの部分にラブラブしているのかを思い出させてくれて、ディレクターズワークショップ、マジありがとう最高だぜ。て思ってます。論理というものはそれ自身に価値が有るのではなく、己の衝動に名前をつけてやるために有るんだな。

はー、すっきりした。おやすみなさーい。ああ、今日は一日事務作業をしていたのに、一番肝心な作業が手付かずだよよよよ。

そういえば来週は大阪ワークショップですが、おかげさまで16日の俳優:演技ベーシッククラスは満員御礼だそうです。だれでも:演劇体験クラスと、演出家向けクラスは、まだ募集中みたいなので、興味があったらチェックしてみてください。
http://jikando.com/workshop/

____________________おしらせ____________________


【あけましておめでとうございます】時間堂は昨年の準備をへて、7月の本公演とレパートリーで上質な演劇の【12ヶ月連続上演】に挑みます。2016年もどうぞごひいきに。
【次回公演】「ゾーヤ・ペーリツのアパート」2016年7月29日(金)〜31日(日) 東京芸術劇場シアターウエスト
http://jikando.com/nextstage/534-zoykasapartment2016.html
【出演者募集】
http://jikando.com/nextstage/539-jtc27wsa.html
【時間堂ソシオ共同運営者募集】
http://jikando.com/past-information/541-jikando2016socio.html

【演出します】
時間堂レパートリーシアター【2016.1】 『言祝ぎ』/『熊』
http://jikando.com/2015-10-26-05-27-33/535-rt-201601.html
2016年1月23日(土)〜25日(月) at toiroan 十色庵

時間堂レパートリーシアター in横浜【2016.2】 『人の気も知らないで』『ヂアロオグ・プランタニエ』
http://jikando.com/2015-10-26-05-27-33/536-rt-201602tpam.html
2016年2月12日(金)・13日(土) at 長者町アートプラネット Chapter2


ワークショップ情報

*2015年で時間堂主催WSは終了しました。いままでありがとうございました。

http://jikando.com/workshop.html

【大阪】だれでも:演劇体験クラス1月17日(日)12:00〜14:00
http://jikando.com/workshop/529-2016osakabc.html

【大阪】演出家や劇団主宰のためのマイズナー・テクニック入門・座学と実践
1月15日(金)〜17日(日)
http://jikando.com/workshop/528-2016osakaa.html


静謐な演劇空間「toiroan 十色庵」一般貸出スタート
http://toiroan.tumblr.com/