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黒澤世莉です。やるやる詐欺だった、高校生と創る演劇「赤鬼」の振り返りでもしましょうかね。公演から一ヶ月経ちましたし。そろそろいいころかな。てか、忘れるから。

ご存知のない方のために補足しますと、高校生と創る演劇「赤鬼」というのは2015年11月に、とよはし穂の国芸術劇場プラットで上演された演劇公演です。わたしが演出、時間堂の直江里美が演出助手で、豊橋とその周辺の高校生が出演する演劇でした。

高校生と創る演劇「赤鬼」
http://www.toyohashi-at.jp/event/performance.php?id=189


こんな素敵なPVも出来てます。面白そうでしょ。面白かったよ。

野田秀樹の名作『赤鬼』、なんと高校生バージョン!:SPICE
http://spice.eplus.jp/articles/21903

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愛知で高校生+プロの本格演劇 高校生演劇の魅力とは:THE PAGE
http://aichi.thepage.jp/detail/20151103-00000004-wordleafv?utm_expid=90592221-48.hwO5r5EoTSCBuGKgIeW2Fg.0

いろんなwebメディア・新聞などに取り上げていただきました。ありがとうございます。

さてさて。

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「高校生がプロフェッショナルの演劇人と作品制作に取り組む社会的な意義」みたいな話はしません。演劇でなくても、若いうちにプロフェッショナルと関わってある期間ひたむきにがんばることは、ひとつの成功体験になるでしょう。参加者だけでなく、それを支える家族や、それを観る周囲の友人たちにもその影響は波及するでしょう。「意味のある苦労をして、意義のある結果が出ることを体感する」というのは、けっこう難しいミッションだと思うんですよね。意味も意義ものある公共のお金の使い方だと思います。て、ことで総括は終わります。

こういう公共側の視点はそりゃあったほうがいいだろうし、豊橋以外でもこういう企画はあったほうがいいと思いますから、ぜひオススメします。公共劇場というハコだけあったって意味は薄くて、そこで何をやるかが問題だし、東京や大阪から作品引っ張ってきてかけるだけっていうのは勿体無い。芸術的な作品制作だけじゃなくて、市民の生活に資する活動を展開して欲しいしです。若年層や高齢者が集まる機会を創ることは、参加者の個人的な楽しみだけにとどまらず、そこで出来たつながりが地域を活性化し、また他のことに取り組む意欲を増進させるでしょう。地域の課題に対する意識も高まると思います。企画する側の手間はもちろん多いですが、地域にとってはいいことしかないですよ。

なんか、書きませんっつって結構書いちゃったな。いや、ここは本論じゃないんです。ただ地域の方々や、行政の担当者に理解してほしいだけで。演劇は社会にとって価値を生み出せるものなんですよって。

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でまあ、そのうえで、芸術家としてはそんなものクソくらえでして、副産物として参加者の幸福度が上がるのはそりゃあわたしだって嬉しいですが、作品が良くならなきゃなんもなんないわけですよ。

で、本題は「赤鬼」の演出家として、上演作品をどう捉えているかって話を書きたいと思います。

前提として、高校生と創る演劇、ですから、前述のようなことは書いても「とはいえ高校生が主役だわな」て考えてました。だから、彼らがやりたいことを手伝おうと思ったわけです。そこで、彼ら自信がプライチという「プラット史上で一番面白い演劇にする」という目標を立てたので、では、それに向かってがんばろう、と思ってたわけです。

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謎の男性ことひっちこと飛知和寿輝さん。高校生の出演する演劇で、作品としての強度に「高校生だから」という前置詞が不要なものとして、いわき総合高校演劇部「あひる月13」と、F/T「ブルーシート」が思い浮かびます。その両方に出演するひとです。すげえな、ひっち。

ちょうど豊橋に来る前に、東京都高校演劇連盟の城東B地区の審査員をやっていて、この地区は本当に激戦で、都大会に行った紅葉川高校と科学技術高校だけじゃなくて、東とか深川とか王子総合とか、質の高い作品が多かったというのも、高校生の可能性を感じるところもあり「プロなのに負けてられないわ」というプレッシャーもあり、て感じでした。

ふだん自分が創る演劇は、俳優同士のシンプルなやり取りの強度が問題になってくるんですが、おんなじ事を高校生でやっても、たぶん、あんまり上手くいかないなと思っていて。なので「彼らの中から出てくるものの魅力を最大限生かそう」て思ったんですね。去年の時間堂全国ツアー「衝突と分裂、あるいは融合」でも、いろんな地域の中学生や高校生に出演してもらいました。みんな主体性があって、シンプルにそこにいるだけで存在感あったので、それを最大化するのがいいかな、と。

結果的には、それほど普段とやってる取り組みが違ったってことはなかったです。こっちから大人の望む高校生らしさを押し付けもしなかったし。そういうことすると、彼らは期待に答えようとしちゃうからね。反対に、あなたたちはなにがしたいのか、なにを求めてるのかっていうところを突き詰めていきました。彼らから生まれるものが見たいからね。で、基礎訓練を徹底しました。取材とかで彼らが簡単な感想を求められると「ビューティーレッスンという名の体幹トレーニングがきつかったです」しか言わないレベルで。マイズナーテクニックの基礎もしっかりやりましたよ。

基礎練習を徹底することで、彼らの無駄がそぎ落とされて、主体性を持つことで、彼らの自由が浮き彫りになって、その結果、核にある光る部分が現れたんじゃないかなあ、て思います。

まったく違うプロセスを辿ったであろう「ブルーシート」作演出の飴屋法水さんはどんな魔法を使ったんだろうか、見ても創作過程がまったく分からない、めずらしい観劇体験でした。

で、「赤鬼」上演です。100分間ぶっちぎりで面白かったか、と言われると、少々頷きにくいです。でも、心を持っていかれる瞬間があったか、と聞かれたら、これはあったと答えていいと思います。ちょっと冷静に考えてもらえればわかると思うんですが、高校演劇の大会では60分が上限なんですね。高校生で100分鑑賞に耐えうるってだけで、かなりのことだと思います。

ちょいちょい、持っていかれる瞬間があるんですよね。それは観劇体験として上等なものです。

少なくとも、今まで作った53本の中で、すぐ思い出せる瞬間のある何本かの仲間入りは果たしました。これは結構すごいことです。

告白してしまえば、野田秀樹さんも「赤鬼」という戯曲も、決してわたしのお気に入りの作家や台本ではありません。ではなにがわたしの心を持っていったかといえば、それはやっぱり強力な大人スタッフチームの力だし、PLATという空間が持つ力だし、なにより出演者の力だと思います。

高校生の出演者は誇っていい。誇ってほしい。

豊橋まで行って6週間滞在した甲斐があったというものです。

ちなみに今の楽しみは、豊橋や「衝突と分裂、あるいは融合」出演者や城東地区やいわきやの高校生だったひとたちが混ざるところで、演出家として再会することです。出会えよー、待ってるよー。

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最後に、この公演で印象深く、また大きな問題として自分に残っていることを書きたいと思います。

環境のことです。

優れたスタッフ、芸術家たちとの平行な共同作業が出来てとても楽しかったです。演出家として仕事をさせてもらえたなと思っています。日ごろ東京で活動していると、自分の劇団の場合はプロデューサー業を兼任することになります。そうすると、スタッフのみなさんと対等ではなく「雇っている側」の人間になります。予算の都合がつかないとか、低予算でお願いしているんだからワガママ言えないとか、気を使わないようにはしつつも、そういう遠慮がどうしても出て来ます。あるいは、演出家として出向いた現場でも、低予算の現場でいろいろなものを我慢せざるを得ない場合がままあります。

良い環境の中で、ひとりひとりのスタッフさんがプロフェッショナルの仕事をしてくださる。舞台部が、衣裳が、音響が、舞台美術が、照明が、演出チームが、真剣にかつ作品全体のことを想像しながらものづくりをする。

もちろんそれを支えるプロデューサー、制作チームが、しっかり企画を立て、進行を見守っているからです。これに関してはほんと、手のひらで転がされている感がうれしさを通り越してくやしさになるくらい優れていたと思います。ほめてます。

そんなの当たり前だと思われるかもしれません。

当たり前のことを当たり前に現実にしていくのって、困難です。

そういう環境を踏まえて、だから、なのかその上なのか分かりませんが、全員に愛がある。そんな現場なかなかないですよ、演劇に対して作品に対して、もちろん思うところは色々あれど、きちんと己の仕事をまっとうするなんて。ひょっとしたら高校生の真剣さが大人に伝播したのかもしれませんが、それはお互い様のような気もします。高校生も大人に刺激を受けてますからね。

公演が終わってから、このチームで演出ができたことは、自分にとってよろこびだったんだな、と実感しました。そんな公演なかなかないです。

で、東京に帰ってきて、さあ次だってなるわけです。

ここでつらくなる。なにがつらいかって、豊橋である種理想的な環境で作品づくりを経験したわけです。その環境を再現するためには、どんな努力が必要なのか、さっぱり見えてこない、これがつらい。

プラットの場合、予算は公共の助成などが中心で、チケット代はとても安く、割合としては1割や2割だと思います。公共劇場の企画であればそれでいい、ていうかもちろんそういうものなんですが、私たちプロフェッショナルの主催公演でこの環境を創るためには、チケット代をいくらに設定しないといけないのか。さきほどの皮算用でいえば、単純に5倍から10倍にする必要があって、そんな高額チケットが売れるとは思いにくいです。

今も考え込んでいます。自分が存分に演出の力を発揮するために、どう振る舞っていけばいいのか。とてもいい環境にいたから、芽生えてしまった贅沢心でしょうか。現実なんてそんなもんじゃないんだから、我慢しろよと。

そうじゃないと思うんですよね。

すべての演劇の現場が、そんなに無理のない予算で、お互いの想像力が発揮しやすい状況で、かつチケット代も手の届きやすい範囲にあるべきなんだと思います。その状況を作るなんてのは個人の努力の範囲を越えてる。そして、日本人はそういう、環境を整えることが下手、というかそもそもそういう発想をしない。ある状況に甘んじてしまう。し、好きなことやってるんだから苦労しても貧乏しても当たり前、だと思ってる。

そんなわけない。好きなことやって生活できていいんだよ。

そのためには社会全体の意識を変えないと行けないし、仕組みを変えないといけないし、すなわち環境を変えないといけない。ひとりひとりに人間の考え方が、発展していく必要がある。

そのために演出家の自分ができることはなんだろう、なんてことを考えたり、そんなことがそもそも可能なのかと考えたり、している。

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というのが、黒澤世莉の赤鬼総括でした。

I love you all crews and students of Toyohashi so much! See you soon!

____________________おしらせ____________________



【演出します】
http://handsomebu.blog.jp/archives/52354763.html
言祝ぎ
2015年12月19日土 at 王子小劇場

時間堂レパートリーシアター・ワークインプログレス
2015年12月28日月・29日火 at toiroan 十色庵


黒澤世莉 (時間堂・演出家) のプロフィールはこちら:2016年のお仕事募集中
http://jikando.com/member/seri.html ご連絡は info@jikando.com まで

ワークショップ情報

*2015年で時間堂主催WSは終了します。いままでありがとうございました。

http://jikando.com/workshop.html
[演技:ベーシッククラス]
12月14日(月) 19:00〜22:00

[演技:アドバンストクラス]
12月23日(水・祝) 14:00〜17:00

だれでも:演劇体験クラス
12月20日(日) 10:00〜12:00




【大阪】俳優:演技ベーシッククラス1月16日(土)12:00〜15:00

【大阪】だれでも:演劇体験クラス1月17日(日)12:00〜14:00

http://jikando.com/workshop/529-2016osakabc.html



【大阪】演出家や劇団主宰のためのマイズナー・テクニック入門・座学と実践

1月15日(金)〜17日(日)

http://jikando.com/workshop/528-2016osakaa.html

静謐な演劇空間「toiroan 十色庵」一般貸出スタート
http://toiroan.tumblr.com/