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黒澤世莉です。予告通り、時間堂「衝突と分裂、あるいは融合」を振り返ってみよう。

結論から言えば、今までで最も「流した血が届いた」作品のひとつだと感じている。

大打ち上げで「こんな無謀な計画をよくもまあ、と言われていましたが、私個人としては楽しかったことしかありません。巻き込まれたみなさまはいろいろなご苦労があったことと思いますが、最後までお付き合いいただいて本当にありがとうございました。」みたいなことを言ったと記憶しているが、これは嘘だ。嘘というと言葉が強いが、正確ではない。

たしかに、これを語った12月1日の時点では、この実感が正しかった。場所は今年の春につくった自分たちのスタジオ、toiroan 十色庵で、酔っぱらいがギュウギュウに集まっている。酔っぱらいたちは全国から集った公演関係者で、全国には5チームのキャストがおり、ということははじめての出会いもたくさんあったわけで、あるいは他地域の公演を手伝いに行った方々の再会もあって、それぞれ幸せそうにしている。飲み食いしているのは、全国の関係者から集められた鮭やきりたんぽや地酒やあごや野菜やらなんやら、それをメインで調理してくれているのは、大阪からサプライズで駆けつけてくれた現地制作、秋津ねをさんである。自分が企画した公演で、こんなにたくさんの人が関わってくれて、わざわざ大千秋楽と打ち上げのために足を運んでくださって、しかも幸福そうにしているさまを目の前にして、満たされないわけがなかった。だから、冒頭のコメントが出てきた。

これを喋ったあと、札幌劇場際TGR2014公開審査会*1に出席するため、午前5時に札幌に移動をはじめた。そのさなかに色々な思いを整理するでもなく整理していたら「あれ、そんなに楽しいことばかりでもなかったぞ、この公演」という、実に当たり前の事実に気がついた、割と早い段階で。そう、羽田を出る前くらいに。

演劇公演には苦労がつきものだ。これは当たり前のことであり、わざわざ言葉にする必要はない。だがどれくらい大変だったかという度合いは、場合によって様々だろう。本公演は、過去の何作かの本公演、たとえば「森の別の場所」「テヘランでロリータを読む」「ローザ」とは、まったく異なる難しさがあった。

演劇公演には、大まかに分けて「作品づくり」と「制作」の、ふたつの側面がある。「作品づくり」は文字通り、台本を書いたり、稽古をしたり、レストランでいえば「料理をつくる」部分である。「制作」は、企画を立てたり予算を編成したり、ひとの手配をしたり移動の手続きをしたり、言ってみれば「作品づくりではない部分すべて」をやるところで、レストランでいえば「経営、運営をする」部分である。この両方について書き出すと、際限なく書くことがあるので、「作品づくり」に絞って書いてみよう。

たんに関わっている人数でいえば、一回あたりの出演者は13人で「テヘラン〜」より少ない。5チーム37人と考えると多いけどね。ツアーで回った場所でいえば「ローザ」のほうが多いけど、劇団員のみの4人芝居と、各地で現地チームと稽古しながらつくっていく今回とは比べようもない。上演時間95分は、「森の別の場所」の3時間や「テヘラン〜」の2時間弱よりずっと見やすく、つくりやすかったはず。俳優の質やモチベーションも、いままでに勝るとも劣らない。劇団員と客演のバランスということでいえば、完全に劇団員のみの「ローザ」を除けば、4人の劇団員と3人のツアーキャスト、それに6人の地域キャストというバランスは、4人の劇団員と10人の客演の「テヘラン〜」とくらべてそれほどいびつではない。

じゃあ、なにが違ったのか、ていう話になる。それは、

つづく。

*1特別賞 作品賞をいただきました。ありがとうございました。

____________________おしらせ____________________

札幌劇場祭 TGR2014 特別賞 作品賞 を受賞しました。
ありがとうございました。
http://www.s-artstage.com/2014/tgr2014/news/2014/12/257/

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劇団時間堂次回公演全国ツアー「衝突と分裂、あるいは融合」[東京 大阪 仙台 札幌 福岡]情報はこちら
http://handsomebu.blog.jp/archives/52300693.html
大阪・仙台・札幌、福岡、東京でいただいた感想のまとめです。いい感想一杯もらいました。ありがとうございます。
http://togetter.com/li/729848

ワークショップ情報
http://jikando.com/workshop.html

黒澤世莉 (時間堂・演出家) のプロフィールはこちら
http://jikando.com/member/seri.html

時間堂がつくった、演劇をみるつくる体験する場所「toiroan 十色庵」リノベーションの記録。気軽に遊びに来て下さい
https://note.mu/jikando