【更新】201004171400ちょとかえたよ

なんだかロマンチックが止まらないような台本になってしまったが大丈夫なのか黒澤。って感じです。いつもよりそうとう甘口。

なんとなく全文アップしてみます。まだ改稿とかするかもですがね、気がついたこととかご意見いただけたら良くなってるかもしれないよ。という二一世紀型の台本のつくりかたをしてみるぜ。

なんか上演とかしたい場合seri@seriseri.comまでご一報くださいませ。

つうわけでお読みになりたい方は、続きを読むをクリックどーぞ。

15mm08用上演台本
池袋から日暮里まで
2010年4月17日 黒澤世莉

●登場人物
A 男。カメラマン見習い
B 女。大学生
C 男。チェーン店居酒屋の店長
D 女。パティシエ

●舞台
山手線の車内。午前6時。池袋から日暮里まで。

●本編
A、B、Cがいる。

A タンブラーのフタがゆるんでてさ、中コーヒーだらけ。
B はは。
A 防水バッグなのに、ていうかむしろ、防水バッグだから。外に漏れないでビッチャビチャ。
B カメラ、大丈夫だったんですか。
A 機材は別だから。さすがに商売道具と水物はいっしょにしないよ。
B さすが。
A でも資料が全部パーでさ、すげえいい匂いすんのね。
B ラッキーな感じですね。
A そうね、コーヒー好きにはたまらないね、っておい。ビロビロになっちゃって、ひろったエロ本あるじゃん。
B ちょっとわかんない。
A よく落ちてるやつ。
B 見たこと無いよー。
A あそう、こんどよく見といて、橋の下とか公園の藪の中とか、あるから。でその資料持ってったら次の日ボスに殴られたし。

池袋。D、入場。

B へー、厳しいですね。
A 古い世界だからね。体罰ふつう。ライトが遅いでボカ、レフがずれたでボカ。
B 大変だー。
A まあね。

C モモイさんですか。モモイだよね。オレ、覚えてる。
D 覚えてる。
C 久しぶり。
D うん。

A でも、好きだから。
B すごい。
A 正直へこむわ、昭和だよ、うちのスタジオん中。
B ヘコミはマカロン。 (マカロンを取り出す)
A え。
B マカロン食べるといいですよ。 (マカロンを食べだす)
A あ、くれないんだ。
B ないときは、三回叫ぶんです、マカロンって。幸せになれますよ。口にするだけで。
A マジで。
B マカロンマカロンマカロン。ほら。

D 朝は冷えるね。
C そうだね、この時間は。
D 飲みの帰り。
C まあ、そんなとこ。

A マカロンマカロンマカロン。
B ね。
A いや、正直わかんねえ。
B マジで。ひくわー。

C 五年くらい。
D そんなじゃないでしょ。

A どこ住んでるんですか。
B 田町です。
A へえ、いいとこに住んでんだ。
B ふつうですよ。実家がそのへんだから。
A 逆回りのが近いんじゃないの。
B ああ、まあ、そうかもですけども、おんなじくらいなんで。
A ああ。

C 元気。
D うん。君は。
C ああ。元気。やっぱ飲み。
D いや、わたしはこれから。
C 夜逃げ。
D はは。

B どこなんですか。
A オレはね、田端。
B あ、じゃあもうすぐですね。
A うん。友達と二人で。
B へえ、シェアってやつだ。
A そうそう。
B はじめてみました。やってるひと。
A あ、そう。そんな珍しいもんでもないけど。
B いろいろ変な人ですねー。
A お前もな。

D 撮影の、うちあげとか。
C ああ、まあ。そんなようなもん。
D へえ、がんばってんだ。
C そうね。がんばってんね。
D そっか。がんばってんだね。なんか、あれだね。
C どれだよ。
D ううん。嬉しいなって。

B 他人と住むのとか、大変じゃないですか。
A 全然。
B わたしムリだなー。お姉ちゃんと同じ部屋でもうムリ。
A プライベートはほしいタイプだ。
B そういうアレでもないですけど。ひとりになりたいときとかどうするんですか。
A 別に、自分の部屋にいりゃいいだけだし。
B あ、部屋分かれてるんだ。
A じゃなきゃキツイかもね。ああでも、すげえ散らかすヤツだからさ、たまに切れる。
B あーじゃ私も切れられますね。片付け超ムリなんで。
A いや、そうとうひどいよ、ウチのは。マジでありえない。
B どんな感じですか。
A いや、パンツとかブラとかふつうにそこらへんに落ちてるし。ヒドイのは電車の中では言えない。
B うわー、気になる。

大塚。

C いまなにしてんの。
D 電車の中では言えないようなこと。
C え、キャバとか。
D ウソだよ。なんでそんな顔すんの。
C こういう顔なんだよ。
D 銀座のパティスリーで働いてる。
C え、じゃあ、すげえじゃん。菓子職人じゃん。すげえ。
D ね。なんか、そうなった。
C すげえなあ。

B 彼女さんですか。
A まさか、マジで勘弁だから。
B へえ、そうなんだ。

C おめでとう。
D ありがとう。

A ダンスやってる女の子。
B へえ。
A すげえ酒飲。あと片づけできない。美人だけどね。
B へえ、会ってみたい。
A ゴールデンウィークは実家に帰るって言ってた。なんで。
B なんと、なく。

D なに聞いてたの。
C シガー・ロスの新譜。
D へえ、知らない。
C あれ、好きって言ってなかったっけ。
D 言ってない、と思うけど。

A 音楽とか聴く。
B まあまあ。どんなの聴くんですか。
A 昔はビートルズばっか聞いてたけど、最近はふにゃふにゃしたの。
B ふにゃふにゃって。
A 音響系とか、いまヘビロテ、アイスランド系。ビョークとか、シガー・ロスとか。
B ああ、いいですよねえ。
A ね、いいよね。なごむっていうか。ストレス社会の駆け込み寺っていうか。
B そうですよね。
A まあ我慢も修行だと思ってね、がんばるよ。独立するまでは。
B マカロンつかってください。
A うん、うん。
B なんでそんな顔するんですか。
A こういう顔なんだよ。

C まだ田町に住んでんの。
D いや、今日は違う。ていうか、
C 夜逃げ。
D んー、そうかな。パリに行くんだ。
C へえ。旅行。
D じゃなくて。
C 修行、パティシエの。
D うん。まあ、そんなようなもん。
C へえ、そうなんだ。おめでとう。
D ありがとう。
C そうか。留学するんだ。
D ねー。わたしが。あのわたしがねえ。
C ひとりで。
D うん。

B どれくらいで独立出来るんですか。
A 人によるけどね。あと二年で独立する。
B へえ。じゃあ二年間体罰に耐えて。
A あーでもほんとはね、留学したい。
B へーすごい、カッコいい。どこですか。
A 出来ればロンドン。じゃなきゃパリかベルリン。
B へー、パリいいですねえ。
A 本場だもんね。お菓子づくりの。
B そうです、食いしん坊ですから。
A じゃ、一緒に行く。
B いやー、日本語しかできないですからねえ。外国とか生きていけないです。
A いや、行っちゃえば一緒だよ。一緒一緒。
B えーマジムリです。

巣鴨。

D まだ田端に住んでるの。
C うん。
D ユキさん元気。
C いつの話だよ。もう三人くらい前。
D あ、そうなんだ。
C いまはバイトの男とふたりで住んでる。
D へえ、アシスタントやとってるんだ。
C ああ、まあ、ね、そんなもん。
D すごいね。ちゃんとやってるんだね。
C いや、全然だよ、オレは。
D いや、すごいよ。生きてるってことは、すごいことだよ。

A 外国とか、行った事ないの。
B 家族でハワイとかはありますけど。
A ワイハ、いいじゃん。
B うん、楽しかったです。でも旅行ですから、住むのはまた別だし。わたし枕が変わるとダメなんですよ。だから枕も持ってって。
A マジで。
B ごはんも日本食で。
A え、でもスイーツ趣味なんじゃないの。
B 甘い物は別腹っすから。
A あー分かるわ。オレもそう。
B 仲間じゃないですかー。
A オレはメシも全部パンとかでいいから。パンとチーズ三食いけるわ。
B あ、もう完全にムリですね。ごはんとお味噌汁がないと死にます。
A あーそりゃ海外で生きていけないわ。
B まあわたし行かないですから。日本で十分。
A わー。なんか残念だわ。

D 出世したんだね。
C お前こそ出世じゃん。すげえよ。
D そんなことない。
C 向こうはなに、依頼がきたの、こっちから探したの。
D ガストロノミック・アルパジョンっていうコンクールがあって、それでちょっと賞をもらって。
C マジで。
D うん。それで、オファーもらえて。でもほんと、実力っていうか、たまたまだよ。運が良かったし、周りの支えもあって、わたしは全然。
C イヤミだな。
D え。
C 自信もてよ。お前の菓子、マジで美味いんだから。
D うん。

駒込。

B 連休はなにしてるんですか。
A ボスがロスに行くっていうから、いちおう休み。自分の作品撮りでもしようかな。
B 良かったですね、半年ぶりでしたっけ、
A そうそう、ほんと人使い荒いから、しかもギャラ安いし。
B 大変ですねえ。
A までも、好きなことだからね。がんばらないと。
B 何撮るんですか。
A ネイキッドヤングガール。うそうそ。たぶん山かな、穂高でも行こうかな。ヌード撮りたいけどモデルいないし。いつか絶対、マリオ・テスティノみたいなポートレート撮る。うまそうで、品があって、温度があるような。ヴォーグの表紙撮って、グッチの広告撮って、写真集もバンバン出して。

D わたし。
C おれ。

B 打ち込めるものがあるの、いいですね。格好良い。
A だって、お菓子の学校行ってるんでしょ。
B でも、わたし趣味ですから。
A 食べてみたいね。
B ええ、すっごいまずいですよ。
A なんでだよ。
B わかんないですけど、期待されても。あ、じゃあ、わたしのお菓子撮ってくださいよ。うまそうで、品があって、温度があるような。
A いいよ。いまブツどりばっかりやってるから、もとの一〇倍うまそうに撮ってやる。
B うわー、微妙だー。
A もうすぐつくね。
B うん。
A うち、くる。
B (うなづく)

C おれ、カメラやめたんだ。いまは居酒屋の店長。
D そうなんだ。
C 仕事帰り。毎日この時間、この電車乗ってる。
D そっか。
C ごめん。

田端。A、B、退場。

D 降りないの。
C 送ってくよ。
D ありがとう。

D 聞いていい。
C いま一緒に住んでるの、バイトのワンくん。中国人。いいやつだよ。
D なんでやめちゃったの。
C なんでかね。

C 分からない。

D 好きだったよ。君の写真。実物より美味しそうになるの、すごかった。
C 撮りたいようなもんは撮れなかった。
D まだ、早いよ。
C そうだけど。普通に、食えないから。ってのも理由だけど、それ関係ない気もしてる。
D やめたわけじゃないんでしょ。
C 機材は全部売った。つくりたいお菓子、つくれてるの。
D わたしには、つくりたいものなんて、なくって。ただ毎日こねたり焼いたりしてるだけで。君みたいな目標とか、全然なくって。
C 打ち込めるものがあるの、いいね。格好良い。
D そんなことないよ。目標に向かって突っ走ったっていうより、全力で現実から逃げまくってたら、パリ行のチケットを持ってたって感じ。
C なんで続けてるの。
D なんでかね。
C 分からない。よな。

西日暮里。

C 分からないことの方が、続くのかもな。
D うん。

C 行ってもいい。
D ごめん。
C ひとりじゃないんだ。
D ごめんね。
C ウソつきだね。
D お互いにね。

C じゃあ、お元気で。
D うん。元気でね。

日暮里。

D (取り出し、渡す)マカロン。

D、退場。
C マカロンマカロンマカロン。ウソつき。

おわり